ギリシャ問題


 前日の海外時間にS&Pが、ギリシャをBBB+格からBB+格へと3ノッチ、同じくポルトガルをA+格からA-格へと2ノッチ格下げしました。これを受けて米欧の株式市場は大幅安、ギリシャの短期債は利回りが10%を軽く超過するなど、久々にパニック的な状態となりました。個人的には業務上も何の影響も無いので生暖かく見守れるのですが、外債担当者は大変だったみたいでした。ギリシャ以外のイタリア・ポルトガル・スペインなどの国債もロンドン時間になるまで全く取引が出来ず、ロンドンがオープンした後も、業者は在庫リスクを回避し、投資家の買いオーダーが入らない限りは取引が成立しないような状況だったようです。それでも必要なポジション調整は弊社トレーダーの奮闘のおかげで何とかこなせました。トレーダーの皆様、お疲れさまでした。


 次はMoody'sの格下げが一つの山かな。ギリシャ国債はWGBIなどの主要インデックスに入っていますが、WGBIではMoody'sあるいはS&Pの投資適格(Baa3/BBB-格以上)が採用基準ですので、Moody'sでも投資不適格となってしまうと、パッシブ系ファンドによる売却がダメ押しする可能性があります。IMFはともかく、EUは早急に実効性のある救済案を纏めなければなりませんね。とはいえ、この問題って解決できるのですかね。ギリシャ危機が表沙汰となった時にちょっと考えてみて、「政治的に無理じゃね」という結論に至り、会議の時に役員にそう具申したら思い切り嫌な顔をされたのを覚えています。まあ、どこの運用会社も外債で食べてますからね。


 結局のところ、統一通貨圏の中で加盟国のソブリン債がデフォルトするというデメリット(主として通貨安の発生と、他のPIIGS諸国への波及)と、ドイツやフランスなどの財政支援を行なう側の国民感情(こじれれば、次の選挙が危ないですからね)を天秤にかけた上で、ギリシャ救済を優先するという選択肢を政治家が取り得るか否か、ということではないかと考えています。はっきり言って、メルケル首相には本当に同情しますよ。この問題がどう転んでも自分には何のメリットもないですからね。ギリシャを支援すれば自国民から恨まれ、下手をすれば政治生命が終わりかねない。一方、ギリシャ財政再建のために過度の緊縮財政を強いれば、ギリシャ国民の怨嗟の対象となります。また、欧州発の金融危機を招きかねないので、問題を放置することもできません。本音を言えば、出来る限り時間稼ぎをしたいという所なのでしょうが、5月には多額のギリシャ国債の償還が来ますので、それもできない。したがって、基本的に詰んでる問題なのです。


 今回の危機の結果、ギリシャが救済されようとされまいと、統一通貨ユーロは何らかの変質を迫られることになるでしょうね。ユーロ自体が瓦解して以前のような各国毎の通貨に戻るのか、周辺国を切り捨てて「新ユーロ」が作られるのかは分かりませんが・・・ 基本的に統一通貨(及び統一的な金融政策)は、その通貨圏における信用力の低い国々により多くのメリットを与えます。統一通貨の導入により、信用力の低い国には通貨切り下げのリスクが無くなるため、経済力と不均衡な資本流入が起こるとともに、インフレが惹起されます。一方で、ドイツのような先進国では資本流入が細り、成長ポテンシャルが損なわれるため、周辺国に対する相対的な不景気とデフレが発生します。こうした構図はユーロ導入前から主張されていたことですが、今回の危機がこうした統一通貨の問題点をクローズアップさせることとなりました。こうした現実を前にしてドイツ国民はどう考えるのでしょうか。それでも、統一通貨・統一経済圏が良いと考えるのでしょうか。私はその可能性は低いと思いますが・・・


 翻ってわが国でも「東アジア共通通貨」なる珍妙な提案をした「ルーピー」がおりましたが、このユーロの惨状を見て猛省して頂きたいものですな。